痴漢、強制わいせつ、傷害などの被害者のある犯罪で、加害者(被疑者・被告人)が事実を認めているケースでは、加害者側から被害者に対し、示談の申込がなされることがあります。
刑事事件において「示談」とは、加害者が被害者に一定の金銭(被害弁償金、慰謝料、治療費などの名目)を支払い、その代わりに「加害者を許す」「告訴(被害届)を取り下げる」「刑事罰を求めない」といった内容の示談書に被害者が署名・押印し、加害者側に交付する手続をいいます。
加害者が事実を認めて反省している場合、弁護の依頼を受けた弁護士(刑事弁護人)としては、ほぼ例外なく、被害者に示談を申し込むことをアドバイスします。
被害者からすると、いきなり加害者の弁護士を名乗る人から電話や手紙が来て戸惑うかもしれませんが、上記のとおり刑事事件では一般的に行われることですので、ひとまずは焦ったり怖がったりする必要はありません。
示談交渉は、加害者が自分の力で行うことも不可能ではありません。しかし、一般的に被害者は、加害者本人と顔を合わせたくない、連絡先を知られたくないと考えます。そこで多くの場合、弁護人が加害者の代理人として、示談交渉をすることになります。
よく、加害者が弁護士を立てたことを知って、「事実を争うのか」「反省していないのではないか」と思われる被害者の方がいますが、必ずしもそういうわけではありません。
示談交渉が始まるまでの流れ
示談交渉は、通常、下記のような流れになります。
1.加害者が、自分の弁護士(刑事弁護人)に、被害者との示談交渉を依頼する。
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2.加害者弁護人が、事件担当の検察官に、加害者が示談を希望していることを伝える。
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3.担当検察官が、被害者に対し「加害者が示談を希望しているようだが、あなたの連絡先を相手方に教えても構わないか。」と問い合わせる。
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4.被害者がこれを承諾したら、担当検察官が加害者弁護人に、被害者の連絡先を伝える。
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5.加害者弁護人が、被害者に対し、手紙や電話で示談交渉を申し込む。
このように、いったん検察官を通じて加害者の弁護人に連絡先を教えてよいかという被害者の意思確認が行われ、 連絡先を教えてもよい、ということになればその後加害者弁護人と被害者との間で直接やり取りをする流れになります。
ただし、もともと加害者と被害者が知り合いで、連絡先を把握している場合などは、最初から検察官を介さずに弁護人から連絡が来ることもあります。
加害者が示談を希望する理由
示談をする目的は、一つには、誠意ある謝罪及び被害弁償を尽くして、被害の回復を図ることです。したがって、示談を申し込んでくるということは、少なくとも加害者が自分の非を認め、形ある誠意を見せる姿勢があることを意味します。
もう一つの目的は、刑事処分(起訴or不起訴)や量刑(実刑or執行猶予、禁錮・懲役の長さ等)を軽くすることです。
示談は、被害者自身が加害者を許したこと、被害感情が一定程度和らいだことを表すものなので、加害者の処遇を決める上で最も評価される事情といっても過言ではありません。
例えば、比較的軽微な犯罪で、起訴前の段階で示談が成立すれば、不起訴(起訴猶予)となる可能性が非常に高くなります。
特に、器物損壊罪や強制わいせつ罪のような親告罪(告訴がないと起訴できない犯罪)についていえば、示談が成立して被害者が告訴を取り下げれば、必ず不起訴になります。
不起訴になるということは、前科が付くのを免れることを意味するので、加害者にとってとても重要です。
また、起訴されて刑事裁判にかけられた場合でも、被害者と示談を成立させることで、執行猶予判決になる可能性が高まりますし、実刑になる場合でも、示談が考慮されて刑の期間が短くなります。
さらに、示談には、民事上の権利義務関係も清算する意味合いがあります。
示談書には通常、「本示談書記載のほか、本件に関し一切の債権債務関係が存しないことを相互に確認する」といった清算条項が付されますので、示談が成立すれば、もう示談金以上の金額をあとで請求されることは無くなります。
このように、示談は、自らの犯した罪について、刑事・民事の両面を一挙に解決する手段です。
そのため、加害者にとって、示談できるか否かはとても重要な意味をもちます。
示談をするメリット
1.裁判等で損害賠償請求した場合よりも高額の示談金を、迅速に受け取れます
一般的に、被害者に支払われる示談金には「損害の賠償」と「犯罪行為について許しを得ることの対価」という二つの意味合いがありますので、裁判などで加害者に請求した場合に認められる金額よりも高額にするのが筋です(もっとも、裁判で認められる金額というのはあくまで想定なので、一応の目安です)。
さらに加害者が前科をどうしてもつけたくないという事情の場合は示談金が跳ね上がることもあります。
また、裁判を起こした場合、どんなにスムーズに行っても判決を得るまでに数か月はかかります。
この点、示談をした場合は、通常示談成立と同時に示談金を現金で渡されますので、圧倒的に早く金銭を受け取ることができます。
このように、示談によって、金銭面で有利に、かつ迅速な解決が可能になります。
2.加害者の現状や反省態度等を知ることが出来ます
犯罪被害者としては、加害者本人の言い分、反省の度合い、仕事や住んでいる場所、家族構成など、加害者側の情報を色々知りたいと思うこともあると思います。
これらのことを(本人以外で)一番把握しているのは、事件を担当する警察や検察だと思いますが、基本的に捜査機関は、たとえ相手が被害者であっても、加害者の個人情報を安易に教えてはくれません。
その点、示談交渉の場になれば、加害者の弁護人に対し、自分が知りたいと思っていることを自由に質問することができます。もちろん、弁護人にも守秘義務があるので、全て教えてくれるとは限りませんが、捜査機関に比べれば、加害者が示談を希望する以上、こちらの希望を酌んで情報を開示してくれることが期待できます。
また、被害者の立場から、加害者に言いたいこと(被害の実情や、処罰感情など)があれば、本人に伝えることを弁護人に要請できます。
3.加害者の遵守事項を設けることができます
示談をする場合、示談金の支払以外に、加害者が今後守るべき約束事を、加害者との間で合意することができます。
よくあるのが、痴漢事件の加害者に対し、今後使用する電車や乗車時間帯などを制限する条項を盛り込むケースです(例:本合意の日から5年間、JR●●線は使用しないものとする)。
金銭的な面だけでなく、今後の被害者の生活の平穏に資するという点も、示談の利点です。
示談をするデメリット
示談のデメリットは、加害者の処分・量刑が軽くなるということに尽きるといって良いでしょう。
上で述べた「加害者が示談を希望する理由」の裏返しです。
したがって、あくまで加害者が厳しく罰せられることを望む場合は、示談交渉自体を受けるべきではありません。
担当の検察官に、示談はしないという意思をはっきり伝え、連絡先が加害者側に伝わらないようにしましょう。
ただし、気を付けなければならないのは、示談を拒絶したとしても、必ずしも加害者が起訴され、厳しい実刑を受けるとは限らないという点です。
検察官が起訴するかしないか、裁判官がどのような刑罰を下すかは、事案の重大さ、犯行の悪質さ、被害の大きさ、加害者の反省状況など、様々な要素を総合考慮して、最終的には検察官や裁判官の裁量によって決せられます。 示談の有無は、重要な考慮事由の一つではありますが、必ずしもそれが結果に結びつくとは限りません。
実際、加害者にしっかり前科を付けて反省させたいので、示談を断ったところ、結局検察官の判断で起訴猶予になってしまったといった事例が往々にしてあります。
したがって、示談はしたくないと思っている場合でも、示談を拒絶することで加害者にどの程度の処罰が下されるのか、よく見極めた上で決めるようにしましょう。
示談交渉(被害者側)を代理します
◆加害者側に弁護士がついており、示談交渉がなされている場合、川合晋太郎法律事務所の弁護士が示談交渉(被害者側)を代理します
加害者が弁護人に示談交渉を依頼するのと同様、被害者側も弁護士に示談交渉の代理を依頼することが可能です。
弁護士が示談交渉を代理することには、次のようなメリットがあります。
1.示談を、より良い条件で成立させることができます。
被害者本人が相手だと、示談金を安く済ませようと考える加害者も少なくありません。その点、弁護士が代理人として交渉に臨むことで、専門家の観点から妥当な示談条件を見極め、被害者側の言い分をはっきり主張し、より被害者に有利な条件で示談することが可能になります。
また、弁護士を付けてこちらの本気度を示すことで、加害者により深い反省・謝罪の気持ちを持たせることができます。
2.代理人弁護士が、示談交渉及び金銭の授受等の一切を代理するので、被害者本人が、示談交渉のために仕事を休んだり、貴重な休日を費やす必要がありません。
特に、弁護士同士であれば、示談交渉の日程も比較的組みやすく、より迅速な解決が期待できます。
3.被害者に代理人が付くことで、加害者側から直接被害者に電話等の連絡が来るのを防ぐことができます。
川合晋太郎法律事務所では、示談交渉の経験豊富な弁護士が、依頼者(被害者)の気持ち、言い分をしっかり受け止めた上で、専門家の立場で交渉に臨みます。
また、当事務所は加害者の刑事弁護も数多く手掛けておりますので、より相手方の視点をふまえた上での適切なアドバイスが可能です。
加害者側の弁護士から示談の申し入れがあった場合の示談交渉(被害者の代理)の弁護士費用は、
着 手 金:無料
成功報酬:示談金の20%~(ただし、10万円を最低額とする。また、示談金が100万円を超えた部分は10%とする)
とさせて頂いております(ただし、事案の難易度によって変わることがあります)。
初回無料相談実施中
川合晋太郎法律事務所では、東京、神奈川、埼玉、千葉県など、当法律事務所まで面談に来れる方で、加害者側の弁護士から示談の申し入れがあった方のために、初回無料相談を行っています。
示談すべきかお悩みなら、下記までお気軽にご相談ください。