痴漢に適用されるいわゆる迷惑防止条例は、昭和37年に東京都で制定されたのが始まりで、 暴力団の資金源を摘発すること等を目的として作られました。
しかし、電車内での痴漢行為等を的確に処罰する法律がなかったため(「強制わいせつ罪」では接触等の痴漢行為が対象外のため)、迷惑防止条例が使われるようになりました。
痴漢に適用されるいわゆる迷惑防止条例は、本来、どのような目的のために作られたものなのでしょうか。
痴漢を行った場合、適用されることがもっとも多いのが迷惑防止条例です。 条例ですので、都道府県の議会が作るものですが、現在は、全ての都道府県において制定されています。 たとえば、東京都であれば、「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」です。
しかし、迷惑防止条例は、痴漢だけを処罰する法律ではありません。 痴漢の処罰についても、迷惑防止条例の内、痴漢に適用される部分は、例えば東京都「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」を例にとると、 第5条 「何人も、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、人を著しくしゆう恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をしてはならない。」 とされている条文です。
意外に思われるでしょうが、痴漢等の文言はなく、処罰される行為についても、 「人を著しくしゆう恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動」という抽象的な規制の仕方をしているだけです。
この外に、迷惑防止条例は、ダフ屋行為、ショバ屋行為、景品買い行為、粗暴行為、押売行為、不当客引き行為、 たかり行為、行楽地等の危険行為などのほか、盗撮行為なども規制しています。
このような迷惑防止条例は、昭和37年に東京都で制定されたのが始まりのようです。
そもそも、この条例ができたのは、東京オリンピック(昭和39年)を控え、 暴力団の資金源が賭博から他の方法に転換しているのでそれを摘発すること及び小暴力の撲滅のため作られたもののようで、 この点では、昨年(平成23年)、東京都でも制定された「暴力団排除条例」とむしろ、同じ流れとも言える趣旨から制定されたようです。
したがって、少なくとも、この条例が東京都で制定された当時は、 今のように暴力団などとは無縁の一般人による電車内の痴漢行為や盗撮行為等に適用されることは想定されていなかったようです。 しかし、電車内での痴漢行為等を的確に処罰する法律がなかったため(刑法の「強制わいせつ罪」では強制と認められるほどの痴漢行為が必要なため)、 この迷惑防止条例が使われてきたようです。
そして、東京都の迷惑防止条例を例に取れば、その後、ストーカー行為等の規制等に関する法律の適用外のつきまとい行為等の禁止、 盗撮行為の加重処罰規定等が加えられるなど、最初の趣旨である暴力団やぐれん隊の行為のみの規制ではなく、 都民生活の「平穏の保持」(1条)のために規制する必要のある迷惑行為の規制一般に規制対象が変化していると言えます。
【参考文献】
合田悦三著「いわゆる迷惑防止条例について」(「小林充先生 佐藤文哉先生 古希祝賀刑事裁判論集」上巻 510頁以下)、 會田正和著「迷惑防止条例違反」(東條伸一郎ほか編・シリーズ捜査実務全書(9)風俗・性犯罪 334頁以下)、 安東潔著「特別刑法の諸問題(4)迷惑防止条例」(捜査研究610号55頁)
※無料相談が可能な方は「東京都内の警察に逮捕された方またはその家族の方」となります。
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