痴漢や盗撮に適用される迷惑防止条例は、「常習」の場合、刑を2倍程度に重くしています。
痴漢については、客観的な証拠が乏しいため、「常習」とされるのは、何らかの前科がある場合です。これに対し、盗撮については、画像があることが多いため、犯行自体の手口、態様、余罪の存在等から、常習とされる場合もあります。
常習の場合は2倍
痴漢や盗撮に適用される迷惑防止条例は、「常習」の場合、その刑を2倍程度に重くしています(6ヶ月以下の懲役→1年以下の懲役、50万円以下の罰金→100万円以下の罰金等)。
では、どのような場合、「常習」とされるのでしょうか。
常習とは
例えば、東京都の「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(いわゆる迷惑防止条例)は、
Ⅰ 痴漢行為(同条例(以下省略)5条1項1号)について、
① 常習でない場合は、「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」(第8条1項2号)」
② 常習として痴漢行為をした場合「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金(第8条1項8項)
としています。
また、
Ⅱ 盗撮行為(5条1項2号)について
① 常習でない場合は、「1年以下の懲役及び100万円以下の罰金」(第8条2項1号)
② 常習として盗撮行為をした場合は「2年以下の懲役及び100万円以下の罰金」(第8条7項)
としています。
では、ここでいう「常習」とはどういうことで、どのように認定されるのでしょうか。
常習と認定される場合
「常習」であることにより、より重く処罰される犯罪としては、他に常習累犯窃盗、常習賭博罪等がありますが、「常習」とは「ある犯罪を反復する習癖のある者が、その習癖の発現として犯罪行為を行う」こととされています。
そして、ここで「習癖」というのは、ある者が繰り返し痴漢又は盗撮行為をおこなっているという客観的事実ではなく、その者自身の性的な欲求をみたすためにそれらの行為を繰り返す、いわば癖とも言うべき人格的、性格的な傾向をもっていることを意味します。
つまり、行為ではなく、その行為を行った者の属性に着目した性質とされています。
実際、痴漢行為や盗撮行為を行う者のなかには、再三逮捕されても、さらには実刑になっても、犯行を繰り返す依存症とも考えられる方もいます。
しかし、特定の被害者に、再三、これらの行為を行った場合、特定の被害者に対する執着であり、習癖とは言えないと判断されることもあり得ます。
痴漢と盗撮の常習の違い
痴漢行為の常習性の判断と盗撮行為の常習性の判断は、共通する点も多いですが、違いは、盗撮行為を犯す者は、盗撮した被害者の画像データーをスマホ、カメラ、パソコン等に保管していることが多く、客観的な証拠がある場合が多いのに対し、痴漢行為は、電車等の公共の場で偶然そこにいた被害者を狙うことが多い犯罪のため、客観的な証拠が少なく、その場で検挙されない限り発覚しにくく、客観的証拠が乏しいことにあります。
痴漢の常習性を判断する要素としては、①前科前歴、②行為自体の回数、③犯行自体の手口、態様、④余罪の存在、⑤処遇プログラムの受講歴、治療歴等が考えられますが、客観的証拠が乏しい痴漢行為の性質から、結局、①前科前歴を軸として、判断されることになります。
盗撮行為による前科前歴がある場合、常習性の存在を積極的に認める方向に働く事情となります。
これは、他の都道府県における前科でも当然そうです。
また、今回の痴漢行為とおなじような形態による強制わいせつ罪の前科がある場合も同様に考えられるでしょう。
さらに、複数の同種の前科前歴がある場合には、常習性がより強く認められることになるでしょう。
どの程度の前科があれば常習と認定されるか
では、直前の前科との間隔がどの程度で、何件程度の前科があれば、常習と認定されるのでしょうか。
これについては、「常習痴漢罪で起訴され、常習と認定した判決がされている事案は、同種の前科(特に懲役刑)が複数回あり、最終の前科から行為時まで数年以内(多くは5年以内)程度のものが多い」(田辺三保子裁判官著「刑事事実認定重要事例研究ノート」警察学論集 第68巻第10号132頁以下)とされているようです。
盗撮の常習性を判断する要素としては、痴漢と同様、①前科前歴、②行為自体の回数、③犯行自体の手口、態様、④余罪の存在、⑤処遇プログラムの受講歴、治療歴等が考えられます。
この場合も、①の前科前歴が一番重視されることにはなるでしょう。
しかし、前記のとおり、盗撮行為を行う者はスマホ、カメラ、パソコン等に、画像データーを残すケースが多いことから、トイレ、更衣室等にカメラ等を設置して盗撮する場合(③)や、余罪(④)の存在の証拠がある場合は、常習性が認められるケースもありうるでしょう。
※無料相談が可能な方は「東京都内の警察に逮捕された方またはその家族の方」となります。
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