- 芸人が「不同意わいせつ罪」という犯罪を犯したのではないかというニュースを見ましたが、「不同意わいせつ罪」とはどのような罪でしょうか。
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不同意わいせつ罪は、刑法第176条の罪です。従前、強制わいせつ罪とされていた罪を、令和5年改正(同年6月16日成立、同年7月13日施行)により、改正した犯罪です。ですから、現在は、強制わいせつ罪という犯罪はありません。さらに、この不同意わいせつは、従前の準強制わいせつ罪(旧刑法178条1項)も含んでいるため、準強制わいせつ罪もなくなりました。
不同意わいせつ罪は、加害者と被害者の間の婚姻関係の有無に関わらず(刑法176条1項本文)、刑法176条第1~3項に定められたそれぞれの要件を満たす場合に成立します。以下、【Ⅰ】~【Ⅲ】で、それぞれ説明します。
なお、いずれの場合も、この罪の成立のために、加害者が性的意図(性欲を刺激興奮させ又は満足させる意図)を有することは不要と解釈されています(従前の強制わいせつ罪についての最大判平成29年11月29日刑集71巻9号467頁:金を借りようとした相手方の要求に応じて7歳の女子に自己の男性器を触らせるなどしている写真を送った事案で同罪の成立を認めた。)。
【Ⅰ】 176条第1項
①下記(1)~(8)までに記載されている行為又は事由その他これに類する事由
(1) 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
※ 暴行等の程度は問わないと解されています。また、自己が暴行等をしなくても、他者が加えた機会に乗じることも含むとされています(以下についても同じ)。このように、従前の準強制わいせつ罪の内容が(1)~(8)に含まれています。(2) 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
※ 一時的なものを含むと解釈されています。(3) アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
(4) 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
(5) 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
※ 「いきなり性的行為がされる」「不意打ち」などの場合が想定されています。(6) 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕がくさせること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
※ 被害者が身動きでなくなる状態を想定しています。「フリーズ」という状態でしょうか。(7) 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
(8) 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
※ 雇用主と従業員、上司と部下、教師と学生、コーチと選手といった関係から生ずる相手の影響力によって、解雇される、降格されるといった不利益をおそれて、自由な意思決定や意思表明ができない場合がこれに当たります。
難しいのは、このような関係性がある場合、形式的には同意があっても、不同意わいせつ罪が成立しうることです。により、
②同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて
③わいせつな行為をした場合に
不同意わいせつ罪は成立します。
刑罰:6カ月以上10年以下の拘禁刑【Ⅱ】177条2項
行為が「わいせつなものではない」との誤信をさせ、若しくは行為をする者について「人違い」をさせ、又は「それらの誤信若しくは人違いをしていること」に「乗じて」、「わいせつな行為」をした場合にも不同意わいせつ罪は成立します。
刑罰:6カ月以上10年以下の拘禁刑【Ⅲ】177条3項
①13歳未満の者に対する性的行為並びに②13歳以上16歳未満の者に対する5年以上前に生まれた者による③わいせつ行為は、手段、状況、同意の有無を問わず、不同意わいせつ罪が成立します。
刑罰:6カ月以上10年以下の拘禁刑※強制わいせつ罪においても、13歳未満の被害者に対しては用いられた手段、同意の有無を問わず、わいせつ行為をした場合には犯罪が成立したので、この点は、不同意わいせつ罪でも同様です。
義務教育中の者を保護するために、「16歳未満」とし、上下関係があるとみなせる5歳の年齢差がある場合は、真の同意といえないとしました。
この記事では、不同意わいせつ罪の全体について、まずは説明させていただきました。
個別の争点については、また、記載させていただきますが、この不同意わいせつ罪については、弁護士などの実務家から、どのような場合に適用されるかわからないなどの批判もあります。
性犯罪の重罰化の傾向からすると、性犯罪を疑われた場合、特に逮捕された場合などは、刑事事件に強い弁護士に相談することをお勧めします。